
外部のPMOコンサルに支援を頼んで数年。プロジェクトは回るようになったものの、毎月の委託費は重く、契約を切った瞬間に元へ戻る予感がある——PMO内製化を検討し始める企業の多くが、この状態からのスタートです。先に結論を書くと、内製化とは「外部の人を社内の人に置き換えること」ではありません。外部人材の頭の中にある標準・判断基準・育成の仕組みを、組織側に移し替えることです。この記事では、その移し替えを5つのステップに分解し、つまずきやすい失敗パターンと、外部支援を使った段階的な移行のやり方まで、推進担当者がそのまま計画に落とせる粒度で解説します。
外部のPMOコンサルや常駐支援に頼っている状態から、社内の人材と仕組みでPMO機能を回せる状態へ移行する。これがPMO内製化です。動機として最もよく挙がるのはコスト削減ですが、僕はコストだけを理由にした内製化をおすすめしません。高い確率で「安くはなったが、回らなくなった」で終わるからです。
内製化に踏み切る妥当な理由は、むしろ次の3つだと考えています。
そして内製化で社内に移すべきものは「人」ではなく、3点セットです。①プロセスと標準(テンプレート・会議体・レポートライン)、②判断基準(何を予兆とみなし、いつ介入するか)、③育成の仕組み(人が入れ替わっても機能が維持される構造)。外部メンバーの椅子に社員を座らせただけの「内製化」は、依存の対象が社外の会社から社内の特定個人に変わっただけで、何も解決していません。
全体像を先に示します。各ステップの「完了の目安」を先に決めておくことが、途中で迷子にならないコツです。
| ステップ | やること | 完了の目安 |
|---|---|---|
| 1. 棚卸し | 外部が担う業務・判断の可視化とスコープ決定 | 業務一覧と移管の優先順位が合意されている |
| 2. 標準化 | テンプレート・プロセス・判断基準の文書化 | 標準一式が「外部の人がいなくても使える」状態 |
| 3. 人材選定と育成計画 | 中核メンバーの専任化と育成設計 | 専任者が決まり、スキルの現在地が可視化されている |
| 4. 伴走移行 | 外部と社内で役割を段階的に交代 | 社内主導・外部レビューで業務が回っている |
| 5. 自走判定 | 移行完了の判定と運用ルールの確立 | 判定基準を満たし、契約を段階縮小できる |
最初にやるべきは、外部の人が「何をやってくれているのか」を書き出すことです。当たり前に聞こえますが、これができている発注側は少ない。進捗資料の作成や会議のファシリテーションといった見える業務の裏で、リスクの予兆察知、エスカレーションの判断、ベンダーとの調整といった見えない業務が動いています。見える業務だけを移管して「内製化完了」とすると、見えない業務が消えた数か月後にプロジェクトが荒れ始めます。
棚卸しの軸は「定型業務/判断業務/仕組みづくり」の3分類。移管は定型業務から始め、判断業務は伴走期間で引き継ぎ、仕組みづくりは最後まで外部の知見を借りる。この順番が現実的です。
僕が会社を立ち上げたときの発想の原点は、牛角のマニュアルです。牛角はマニュアルがあるから、バイト初日でも美味しい焼肉が作れる。プロジェクトマネジメントも同じで、体系化さえすれば、めちゃくちゃ頭がいい高度人材でなくても70点くらいの仕事ができるはずなんです。PMの仕事を属人的な職人芸のままにしない——内製化の成否は、この体系化をどこまでやり切るかで決まります。
逆に、標準を整えないまま「優秀な社員をPMO担当に任命」で済ませると、その人の我流に依存する組織ができあがる。我流でなんとかうまくやっているPMは、常にうっすら燃えているか、成功に再現性がないか、どちらかです。標準化の対象は最低限この3つ。
内製PMOの中核には、現場から信頼されている人を専任で置いてください。「手が空いている人の兼任」で立ち上げたPMOは、繁忙期に真っ先に機能停止します。選定の目線は3つ。プロジェクトの現場経験があること、経営とも現場とも話せること、属人対応ではなく仕組みで解決する志向があること。研修サービスの比較や選び方はここでは踏み込みませんが、研修の有無より先に決めるべきは「何ができれば一人前か」の定義です。これは後述するスキルマップで設計します。
ドキュメントを受け取って引き継ぎ完了、にはなりません。役割の移管は「同席→共同→委任→レビュー」の4段階で設計します。最初は外部が主担当で社内が同席し、次に共同で運営し、その後社内が主担当になって外部がレビューに回る。会議のファシリテーションなら、外部の進行を数回観察し、次は一緒に準備し、その後は社内が進行して外部が振り返りでフィードバックする、という具合です。
このフェーズで一番大事なのは、判断の場面に社内メンバーを立ち会わせること。「なぜ今エスカレーションしたのか」「なぜこのリスクは静観なのか」という判断の理由こそ、ドキュメントに残らない移転対象だからです。
「もう大丈夫そう」という空気で契約を切るのではなく、判定基準を先に決めておきます。たとえば次の4つ。
すべて満たしてから一気にゼロにする必要はありません。月次レビューだけ残す、四半期に1回の標準見直しだけ依頼する、といった細いパイプを残す移行のほうが、結果的に安く済みます。前始末は後始末の3〜5倍安い——プロジェクトの品質管理だけでなく、内製化の設計にもそのまま当てはまる話です。
内製化の中心課題はナレッジ移転です。設計で押さえるべきは、ナレッジには移転手段の異なる3つの層があるという事実です。
| ナレッジの層 | 中身 | 移転の手段 |
|---|---|---|
| 形式知 | テンプレート、手順書、規程 | ドキュメントで移転できる |
| 判断基準 | なぜその手順なのか、例外時にどう動くか | ケース解説・判断理由の言語化・レビュー |
| 暗黙知 | 介入のタイミング、聞き方、場のつくり方 | 同席・OJT・振り返りでしか移らない |
失敗する内製化は、1層目だけを「納品物」として受け取って完了にしています。1層目の形式知、つまり進捗報告書・課題管理表などの標準テンプレートを整えること自体は比較的容易ですが、それだけでは判断基準と暗黙知が置き去りになります。逆に言えば、支援会社との契約に「移転計画の作成」「判断理由の文書化」「同席機会の設定」「移転完了の判定基準」を作業と成果物として明記できれば、移転の実効性は大きく上がります。ナレッジ移転を口約束にしないこと。ここは発注側がコントロールできる、数少ない強力なレバーです。
| 失敗パターン | 何が起きるか | 回避策 |
|---|---|---|
| 納品型移転 | ドキュメントは揃ったが誰も運用できない | 伴走期間を必ず設け、判断業務の移転まで含める |
| 兼任だけの体制 | 繁忙期にPMO業務が止まり、形骸化する | 中核1名は専任とし、職務として明文化する |
| 標準の押し付け | 現場が標準を使わず、二重管理になる | 実プロジェクトで試行→改訂のサイクルを回す |
| 外部を切るのが早い | 判断業務が引き継がれる前に契約終了 | 自走判定の基準を契約時点で合意しておく |
| 中核人材の離職 | 仕組みが再び属人化し、振り出しに戻る | 後継育成と標準の更新を運用KPIに入れる |
5つに共通する根っこは、内製化を「コスト削減プロジェクト」として設計してしまうことです。予算の話から始まった内製化は、伴走期間が真っ先に削られ、結果として納品型移転に着地する。内製化は育成と仕組みづくりのプロジェクトであり、立ち上げ期にはむしろ投資が要ります。この認識を経営と合意できているかどうかが、実は最初の分岐点です。
内製化したいからといって、外部支援をゼロにするところから始める必要はありません。むしろ内製化にこそ、外部支援の使いどころがあると僕は考えています。ポイントは、依頼の中身を「作業の代行」から「移転の伴走」に切り替えることです。移転伴走型を含めてどんな支援の形があるのか、PMO支援の提供形態と外部委託の進め方の全体像もあわせて押さえておくと判断しやすくなります。
| フェーズ | 外部の役割 | 社内の役割 |
|---|---|---|
| フェーズ1 | PMO業務を主導 | 同席し、業務と判断を観察する |
| フェーズ2 | 共同運営・判断理由の言語化 | 定型業務を主担当として実施 |
| フェーズ3 | レビューと助言に後退 | 判断業務を含めて主導する |
| フェーズ4 | スポット相談・定期レビューのみ | 自走し、標準の改訂も社内で行う |
支援会社を選ぶ段階で、「最終ゴールは内製化」と最初に宣言してください。ここで話が濁る相手は、構造上、常駐の継続が収益源になっている可能性が高い。移転計画を一緒に描けるか、判断理由を言語化する習慣があるか、契約にフェーズ縮小を織り込めるか。この3点への反応を見れば、伴走相手としてふさわしいかは、かなりの精度で見極められます。
内製化は、移行が完了してからが本番です。立ち上げた社内PMOを維持するうえで最大の敵は、メンバーの成長が見えないことによる停滞。PMOのスキルはソフトスキルに寄っていて、成長が本人にも上司にも見えづらいからです。僕はこのテーマをYouTubeでも話したことがあります。
format_quotePMのスキルというのは、エンジニアと比べるとどうしてもソフトスキルに寄りがちで、1個1個「これができるようになった」「あれができるようになった」ということを感じづらい
処方箋はスキルマップです。
format_quote自分は1回、5カテゴリー22項目でPMのスキルマップ、特にシステム開発のPMのスキルマップというのを作ってみたことがあるんですよね
カテゴリーは、システム開発・コミュニケーション・マネジメント・ビジネスリテラシー・開発フレームワークの5つ。項目ごとにレベルを定義します。たとえば要件定義という項目なら、
format_quoteレベル3が、5,000万円前後のプロジェクトにおいて、要件定義の計画をするところから遂行するところまで、1人でまるっとできますという状態
という具合に、任せられる範囲とプロジェクト規模でレベルを刻んでいく。内製PMOの運用では、これをメンバーごとの育成計画と評価の物差しに使います。スキルマップで弱点が見えたら、外部研修で補うのも有効です。育成フェーズでは、法人向けPMO研修の選び方と費用相場も検討材料になります。もう一つ、スキルマップづくりには副次効果があって、
format_quote作り進めようとしたけれどもいまいち作れないなという場合は、自分がPMに何が必要なのかというところを把握できていないということを自覚するいい機会にもなる
組織として書けないなら、自社のPMO像がまだ曖昧だというサインです。内製化の完了判定の前に、一度チームで書いてみることをおすすめします。スキルマップの作り方と使い方を動画で詳しく知りたい方は、以下もあわせてご覧ください。
「見えづらいPMのスキル成長を可視化し、成長実感を得る方法【プロジェクトマネジメントの教室】」
あわせて、内製PMOは放っておくと社内の常識だけで判断する集団になりがちです。社外のPMコミュニティや勉強会との接点を意図的に持たせ、市場全体で見た自分たちのレベル感を測る機会をつくる。標準の見直しを四半期の定例に組み込む。この2つを運用ルールに入れておくと、内製化後の劣化はかなり防げます。
外部依存からの脱却は、外部との縁を切ることではありません。外部の頭の中にあった仕組みが自社の棚に並び、自分たちの手でそれを改訂できるようになったとき、内製化は完了します。毎月の委託費の請求書にため息をつくより、その金額の使い道を「代行」から「移転」へ振り向けるほうが、1年後の景色は確実に変わるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。
「外部コンサルの費用が毎年の予算会議で議題になるのに、切る決断ができない」「ドキュメントは受け取ったのに、半年で誰も更新しなくなった」「内製化すると宣言して1年、専任者すら決まっていない」——こうした停滞は、意志の問題ではなく設計の問題です。5ステップのどこで詰まっているかを特定できれば、打ち手は具体化できます。
株式会社クリエイティブテックスタジオでは、内製化をゴールに据えた伴走型のPMO支援を行っています。標準化とナレッジ移転を最初から契約スコープに組み込み、フェーズを縮小しながら移行していく進め方です。サービスの詳細はPMO支援サービスをご覧ください。
もっとも、棚卸しをしてみたら「外部支援なしで社内だけで進められる状態」だと分かるケースもあります。無料相談では、現状の整理をもとに内製化ロードマップの初期案づくりをお手伝いし、他社の支援やご自身での推進が適していれば、その旨も正直にお伝えします。

この記事の執筆者
人見悠大
代表取締役
金融系SIerで社内最年少PMとしてQCD未達ゼロを達成後、株式会社クリエイティブテックスタジオを創業。PMO支援・DX推進を手がける。PMP・認定スクラムマスター。
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